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黒の怪物と白の両翼(5): 飛翔

試合終了間際にローリー・アンダーウッドがトライを決める。そしてロブ・アンドリューのコンバージョンが決まると同時に、長かった試合は終わりを告げられた。

それと同時に、興奮した観客がフィールドへ続々と降りてくる。この試合で歴史に深く名を刻むことになった男を少しでも間近に見、手を触れ、空気を感じようと、群集はジョナ・ロムーを取り囲んだ。

そんな彼らの祝福をかきわけながら通路へ進むジョナは、トニー・アンダーウッドが近づいてくるのを目の端に捉えた。 (続きを読む…)


黒の怪物と白の両翼(4): 薔薇は美しく散ったか

ロブ・アンドリューのドロップキックがバーの間を通過した瞬間、トニー・アンダーウッドはワールドカップ優勝を果たしたかのような喜びに包まれた。

彼だけではない。イングランド代表の選手全員、いや、全てのイングランドファンが、優勝を確信するかのように飛び跳ね、抱き合い、ガッツポーズを繰り返した。

準々決勝のオーストラリア戦である。
22-22の同点で、試合時間は80分を過ぎインジュアリ・タイムへ。延長戦に入る直前の、まさにラストプレーであった。 (続きを読む…)


黒の怪物と白の両翼(3): 昂まり

オールブラックスとイングランドが最後に対戦したのは、1993年だった。その試合でニュージーランドは、イングランドに対して10年ぶりとなる敗北を喫している。

当時まだ18歳。当然代表入りしていなかったジョナは、テレビでこの試合を観ていたことを思い出す。あの時、既に将来オールブラックスに入ることを確信していた彼は、自分が共に闘っているような気持ちで画面に食い入っていた。

試合終了時の、選手たちの悔しく哀しそうな貌。今は良き先輩であり仲間である彼らの、あの時の表情を今でもハッキリと思い浮かべることが出来る。 (続きを読む…)


黒の怪物と白の両翼(2): その朝

ジョナ・ロムーの名をラグビー史に決定的に刻むことになるイングランドとの準決勝戦の朝。ケープタウンの街が薄明かりに包まれるのを、ジョナはカーテンの隙間からぼんやりと眺めていた。

その夜、ジョナはほとんど寝ていなかった。眠れなかったのだ。

彼はその巨体を、出来るだけ音をたてないようにしながらベッドから抜き、隣のベッドに眠るフランク・バンスを起こさないよう、そっと廊下に出る。特に目的があるわけではなかった。ただ、ウロウロと徘徊する。 (続きを読む…)


黒の怪物と白の両翼(1): 2分間の粉砕劇

1995年に南アフリカで行われた、第3回ワールドカップ。優勝したのは、開催国のスプリングボックスであった。表彰式は人種隔離政策撤廃後の民族融和を象徴するものとして、単なるスポーツイベントを超えた感動を世の人々に与えた。

しかし、ラグビーファンにこの大会の主役を尋ねれば、殆どの人が挙げるのは決勝で敗れたオールブラックスの怪物『ジョナ・ロムー』の名前であろう。

特に彼の名を世界に知らしめたのは、準決勝戦。その最初の2分間で、イングランドが誇る両翼はズタズタに粉砕された。 (続きを読む…)


背番号「F」と「J」

1983年4月30日、John Player Cup の決勝戦は大いに盛り上がっていた。賜杯にあと一歩まで登りつめたのは Bristol と Leicester。イングランドを代表する2人の名フライハーフ Stuart Barnes と Les Cusworth を擁する両チームの対決に、国中が注目した。

これは現代であれば「No.10対決」とでも書かれるところかもしれない。フライハーフ(=スタンドオフ)の背番号が10であることは、ラグビーファンなら誰でも知る常識である。しかしこの日、2人が背中につけていたのは「10」ではなく、それぞれ “F” と “J” の文字であった。 (続きを読む…)


ラグビー イングランド代表

ラグビー発祥の地、ラグビー校のあるイングランドは、今日でもラグビー界の盟主として大きな影響力を持つ。
代表チームはラグビーの世界的普及と近代化に伴い、かつてのような支配的な力は無くなっている。しかしそれでもIRBランキングでは7位より下がったことはなく、ワールドカップでの成績も優勝1度、準優勝2度と北半球では最高といえる。

セント・ジョージ・クロスの白地に赤のユニフォームと、真っ赤な薔薇が特徴。本拠地 Twickenham スタジアムに響き渡る “Swing Low, Sweet Chariot” の大合唱は、ラグビー聖地の歴史と伝統、そしてプライドを体感させる。

イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズの4国を指して「ホーム・ネイションズ」と呼ぶ。これにフランス、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドを加えた8カ国が「IRBオリジナル」と呼ばれる最初の常任理事国で、かつて日本でもよく「八大強国」と呼ばれた括りである。今日でもIRBの重要な決議にこれらのオリジナル国は大きな発言権を持つが、その中にあってもイングランドの地位はひと際大きい。 (続きを読む…)