ニュージーランドの一番長い夜
ラグビーワールドカップ2011は、開催国ニュージーランドの優勝で幕を閉じました。開幕から約1ヶ月半NZに滞在し続け、すっかりラグビー漬けの毎日でしたが、それももうすぐ終わりです。
こちらでの様子についてはTwitterで【NZ短信】として書いてきましたが、最後に決勝戦の日について、空気感を忘れないよう書いておこうと思います。
いわゆる「観戦記」は柄で無いので、試合の部分ではなく前後の様子について。
ファントレイル
朝から晴天に恵まれ、期待と不安でソワソワと落ち着かない一日の始まり。
朝ごはんを食べたり、犬の散歩に行ったり、お昼ごはん食べたり、いつも通りに過ごしたんでしょうけど、何か記憶は曖昧です。ともあれ、17時くらいに車で出発。
決勝戦の今日は「ファントレイル」をやってみることにしました。これは、ニュージーランドを象徴するバイアダクトのワーフ(ジャイアント・ラグビーボールのあるところ)から、最大の繁華街であるクインストリートを抜けて、決勝戦の会場であるイーデンパークまで4km強の道のりを歩いていこうという企画です。
途中にはパフォーマーが居たり、小さな催しがあったり。しかし基本的には、ファンがみんなで歩いたら楽しいよねという、いかにもキウイらしい牧歌的なイベントです。ゆっくり歩いて1時間の道のり。正直、参加者はそれほど多くないと思っていました。
オークランドシティに着いて、駐車場を探します。いつも1日で4ドルの駐車場が意外と空いていたので、さっそく入ることに。「なんだ、やっぱりまだ時間も早いし、そんなに混んでないね」なんて思ったのですが… 入り口に「今日は26ドル」の看板が。当社比6倍強です。ボッたくりです。道理で空いてるワケで。ちなみに同行していたキウイに訊いたら「ボる」は英語で”price-gouging”というそうで、おかげで勉強になりました。
もちろん、こんな暴利を許すわけにもいかず、別の駐車場を探すことに。ま、それほど苦労せずスカイシティに駐車できました。しかし、すでにクインストリートは人、人、人。ワーフのファンゾーンに行って大スクリーンで観戦する人、スポーツバーで飲んで騒ぐ人、バスや電車でスタジアムに向かおうとする人など、みんなこのクインストリートを交差します。思い思いの黒衣に包まれた人たちが、同じようにソワソワと行き交っていました。
もうひとり友達と合流し、5人でファントレイル開始。正確なスタート地点には戻らず、ちょっとズルしてアオテア・スクエアからスタートです。しかし、この時点でコースを辿って行く人が多数。ちょっとビックリです。
歩き始めてすぐのマイヤーズ・パークでは、学生が作品を置いたり、シャボン玉飛ばしたり。それぞれがシッカリと「ブラック」のテイストで、明るい緑の公園がモノトーンで埋められた、なかなか不思議な空間でした。しかし暗い感じは全くせず、子供たちの笑い声が走り回る楽しいスタートです。
ショッピングモールを抜けると、Kロードへ。繁華街ですが、開いてる店はどこも満員。しかし、結構な店が閉まってます。「かきいれ時のハズなのに、なんで今日閉める?!」と妙にお店の心配をするキウイの友達。お店の人も、もしかしたらスタジアムに向かってるんじゃないのかな。
やがてグレートノースロードに至ると、空いている店も出てきました。なぜかインド料理の店で腹ごしらえ。入ったときはガラガラだったのですが、食べてる間に満員に。どうやらシティに近い方から一杯になって、遠い店へ埋まっていっている様子。ともあれ、ものすごく美味しいお店でした。
道端では、ギターを持って歌う人、マオリ民謡にあわせて踊る人、ピエロに扮装している人などが点在しています。彼らは、運営側に頼まれた人なんだろうと。楽しい。フェイスペイントを入れてくれるブースもあって、子供を中心に行列が出来ていました。
そうしたオフィシャルでないファンも、一生に一度かもしれない日を目一杯楽しんでいます。5~6人のゴツい兄ちゃんたちの一団が、スクラム組みながら横断歩道を渡ってきました。巻き込まれたら死にそうな勢い。車道には、サモア旗をつけた車が激しくパンピング。明らかに改造してます。
別の横断歩道を渡ろうとしたら、反対側からラグビーボールをパスしてきた兄ちゃんもいました。受け取った別の兄ちゃん(別に二人は知り合いじゃなく、単なる通行人同士)が、すかさずパント。しかしミスキックで明後日の方向に。最初にボールを投げた兄ちゃんが全速力で拾いに行く姿が、可哀相でもあり可笑しくもあり。
ラグビーのレフリーに扮装しているパフォーマーもいました。何の気なく横をすり抜けようとしたら、キウイの友達が突然彼に指を突きつけられ、「オフサイド!」のコール。続いてレッドカードを突きつけられたり。オフサイドでレッドって、一体どれだけ悪質なのを繰り返したんだろうと爆笑しきり。
沿道の家では、軒先でパーティをしているところが多く見られました。そうした場所ではティーンから20代前半くらいに見える若い子たちが多く、歩いている人とからかい合ったり、塀の上で旗を振ったり。
結局、2時間くらいかかってイーデンパークに到着。思った以上に楽しく、驚くほど多くの人と一緒に歩いてきました。後で発表されたところによると、ファントレイルを歩いたファンは41,000人。超満員のイーデンパークが61,000人ですから、およそ2/3にあたるファンが歩いてきたことになります。みんな元気。
何万人もの人が、同じように黒いジャージを着て、同じ想いを抱いて、笑顔で同じ道を歩く。それだけのことですが、本当に楽しいイベントでした。
スタジアム
スタジアム周辺でも、やはり多くのパフォーマーが。しかしこの辺の様子は、大会中の他の試合と大きくは変わらず。試合会場を目前にして、リラックスして歩いてきたファンも緊張が高まっているように見えます。
今回本当に幸運なことに、20試合近く観た中で最も良い席が決勝戦で当たりました。試合展開が観やすい最上段ブロックの、最前列。国歌斉唱の際に選手と正面で向かい合えるサイドです。
Lv4まで、歩いてきた勢いを駆って階段を使用。ところが、Lv3の踊り場付近で、胸をおさえて苦しそうにうずくまるお爺ちゃんが。同行者らしき3人のお爺ちゃん、お婆ちゃんも心配そうにオロオロしてます。「セキュリティ呼びましょうか?」声をかけると、既に呼びにいっているとの返事。しばらくして少し落ち着いたらしく、起き上がって呼吸を整えていました。「今日は帰った方が…」普通ならそう思うところですが、絶対に断固、死んでも帰らないんでしょうね。心配でしたが何も出来ず、「気をつけて」と席に向かいました。もしこの日負けていたら、あの人は本当に亡くなっていたんじゃないかと(笑い事じゃないですが
隣の席に座った夫婦は、米国人。今は仕事の関係でNZに住んでいますが、少し前は徳島に居たそうで。しかし、日本代表は応援してたけど、米国代表は一切応援してないそうです。理由を訊いたら「トッド・クレバーが嫌いだから」。なんでもスポーツマンらしからぬ言動が多いらしく。仮にニュージーランドとアメリカが対戦したとして、100%オールブラックスを応援するとのこと。もう、しっかりキウイ。
8時半をまわって、いよいよ試合開始30分前。恒例のニュージーランド・アーミーによる鼓笛隊が登場します。そしてQFから恒例になった、Hakaのパフォーマンス。彼らも「俺、イーデンパークでHakaやったんだぜ!」と語れるのは自慢でしょうね。
続いて、NZの歌姫ヘイリーによるWorld in Union。長い陽の落ちた夜空に、彼女の透明な歌声が響き渡ります。このあたりから、猛烈に緊張してきました。4年間の、いや、24年間の集大成となる瞬間が訪れようとしているのです。
試合後
疲労困憊。
歓喜を爆発させるというより、勝った実感が湧かないまま呆然とフィールドを眺めているうちに、セレモニーの準備が整いはじめました。
笑顔でメダルを受け取る選手たちの顔を見ていると、徐々に喜びがこみ上げてきます。そして、故障により途中でスクォッドから外れたことで「メダルは授与されないのでは」と言われていたミルズ・ムリアイナが映し出された時に、唐突に本当に「良かった!」という気持ちになりました。スレイドも、カーターも、すっきりした顔で晴れやかにメダルをかけられています。
隣の夫婦を見ると、奥さんは大きな眼を潤ませていました。周囲のキウイも、号泣しているような人はいませんが、みな一様に胸から湧き上がる感慨を、ゆっくりと味わうかのようにフィールドを見つめています。
エリスカップを掲げるリッチー。比喩ではなく「夢にまで見た」光景です。オールブラックスが勝ち残ったこと。度重なる故障に耐えて彼自身が立っていられたこと。いずれもが当然の結果ではなく、奇跡の産物に思えます。
彼の手招きで、選手たちが集合。紙吹雪が舞い上がりました。フィールド上はかなり風が吹いているようで、選手の上には舞い降りず、少し離れたところに降り積もってしまいます。やがて選手たちがスタジアムをゆっくりと周回しはじめると、スタッフの子供たちが紙吹雪の中を転げまわって遊んでいました。
我々とは反対側の正面まで達すると、集まってHakaが始められます。試合前はカパオでしたが、今回はカマテ。やはりオールブラックスといえば、カマテを観たい。試合後に観客席に向かってやるのはセブンズでは恒例ですが、15人制では珍しいような。
カップは、選手から選手に渡されます。中にはシャンパン(?)か何かが注がれているようで、それぞれ口をつけ、まさに「勝利の美酒」を味わっていました。しかしSBWは、カップを覗き込んだだけで次の人へ。彼はムスリムなので、やはりお酒は飲まないのでしょう。アリ・ウイリアムズは、はしゃぎすぎてカップの蓋を落としてました。
先ほど子供たちが遊んでいた紙吹雪に、イズラエル・ダグとコーリー・ジェーンがダイブ。仰向けに大の字になって、手足をバタバタとさせて笑っています。ダグはその後も、音楽に合わせて踊ったりノリノリ。プレッシャーから解き放たれて、本来のキウイの兄ちゃんに戻った姿なんでしょう。
ヘイリーが再び登場し、1曲歌いました。しかし、選手は既に散り散りに歩いているし、あまり皆聞いていないようでした。ちょっと残念。
ようやくスタンドを後にして、トイレに。隣で用を足しているお爺ちゃんが、しみじみと呟いた言葉が忘れられません。
“Ah, this is the happiest pee in my life…”(人生で一番幸せな小便だ…)
この日、ニュージーランドでは数多くの「人生で一番幸せな」瞬間をかみ締めた人がいたことと思います。期待を裏切られ続けた24年間は、最後までほんの少し裏切られつつも、ようやく報われました。
そして、2011年ニュージーランド大会は終わりを告げ、2015年大会への道のりが始まっています。次に「一番幸せな」瞬間を味わえるのは、どの国の人たちでしょうか。日本も日本なりに最高の瞬間を、ファンに感じさせてくれることを祈りつつ。
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-- Posted by nao58








