[ラグビー関連映画] 生きてこそ
1972年10月、ウルグアイ・ラグビーを代表するクラブチームを乗せた飛行機が、チリ遠征の途中で消息を断つ。墜落したのは、極寒のアンデス山中。生存は絶望と見られ、捜索も打ち切られた。しかし、彼らは生き延びていた…
全ての生物を拒む銀嶺で、飢えと寒さ、絶望と闘いながら72日間を生き抜き、自力での脱出を成し遂げるまでを描いたドキュメンタリー。「アンデスの奇蹟」として世界中を驚かせたこの生存劇は、一方で死者を食料としていたことなどから、批判と好奇の対象にもなってしまいます。映画中にもそうした描写はありますが、そこだけに興味を注いでしまっては物語の本質を見失ってしまいます。
「ラグビー関連映画」として紹介していますが、映画中にラグビーをプレーするシーンは出てきません。墜落前の飛行機内部でボールを投げあうような場面がある以外、彼らが国内最強クラスのラグビー選手達である描写はほとんど無く、そういった前提を忘れて観終わる方も多いのではないかと思います。
アンデスの奇蹟
しかし、彼らが「ラグビーチーム」であったことがいかに重要な意味をもっていたかは、チリへの脱出行を成し遂げた2人のうちの1人、ナンド・パラードの一人称で書かれたノンフィクション「アンデスの奇蹟」を読むと、よくわかります。
この本では、ラグビーがいかにナンドと彼の仲間たちを育んできたか、チームメイトへ、そしてラグビーへの愛情溢れる表現で繰り返し語られています。そのうち、ほんの一部をここに抜粋してみます。
…ラグビーは、粗野な体力勝負のゲームではなく、堅実な戦略と素早い頭の回転、機敏な動作を要求する。さらに試合になると、そういったものにも増して、チームメイトたちの間に、ゆるぎない信頼感が行き渡っていなければならない。私たちは指導者に言われたものだーチームメイトの誰かが倒れ込んだり、倒されたりしたら、そいつは「草になる」と。(中略)「お前達は、そいつの保護者になる。自分を犠牲にして、そいつの盾にならなければならない。そうすれば、お前たちが頼りになると、そいつは身をもって知るだろう」…
…そして、誰といって手柄を主張できる者などいない。トライは、個々の力を蓄積した結果、わずかずつ勝ち取ったものであって、最終的に誰がボールをトライラインの向こう側へ運ぼうと、栄光はチームメイト全員のものなのだ。…
…私にとって、ラグビーの本質はそこにある。なんであれほかのスポーツでは、これほど徹底した自己犠牲と強い目的意識を得られない。それであればこそ、世界中のラグビー・プレイヤーたちはラグビーにあれだけ情熱を傾け、あれだけ強い仲間意識を抱くのだ。…
…私たちはあまりに多くの物事をともにしてきた。このラグビー・チームで作り上げてきた友情は一生のものだと、私にはわかっているし、多くの友人たちと電話一本で意志が伝わると思うと気が休まる。…
挙げればキリがないですが、彼がいかにラグビーというスポーツに心酔し、チームメイトを大切に思っていたかが強く伝わってきます。
そう、彼らは「家族」だったのです。遭難を題材とした架空の物語では、最初に遭難者同士が喧嘩したり、反発したりといった関係からスタートして、苦難の中から徐々に信頼を深めていくものが多いでしょう。しかしこれはノンフィクションで、彼らは既に一個の家族でした。そのことこそが、この悲劇からの生還者を1人でも増やすことに繋がったのだと信じます。事故直後の大混乱から素早く立ち上がり、一致団結して動くのでなければ、その日すぐに訪れた氷点下の夜を越えることすら叶わなかったでしょう。
関連作品群
この出来事にまつわる多くの作品が発表されています。生き残った人たちへのインタビューを元に書き起こした「生存者」を原作とした映画「生きてこそ」と、ナンドの視点から見た「アンデスの奇蹟」を、ここでは紹介しました。他にも2007年に生還者達のインタビューを交えながら当時とその後を追う「アライブ -生還者-」や、ブラジルで映画化されたルポルタージュ「アンデスの聖餐」、酷評されたメキシコ映画「アンデス地獄の彷徨」など、多数あります。
自分も全て観てはいませんが、まずはやはり映画「生きてこそ」と、書籍「アンデスの奇蹟」をお奨めします。「生きてこそ」のスペシャル・エディションには生存者達のドキュメンタリーも収録されています。今でも当時の仲間とラグビーを楽しむ場面も、短いショットでしたが紹介されています。
いわゆる「ラグビー作品」とは全く異なりますが、ナンドが語るように、彼らが極限のアンデスで試されたのはラグビーに通じる忍耐や自己犠牲でした。それを丁寧に力強く描いたこの映画は、ラグビーファンがこのスポーツに求めるものと通じているように感じます。
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-- Posted by nao58








